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中国と日本の鍼灸の違い

messagepart-2.jpgmessagepart-2.jpg現在の「中医学の中国鍼」と「漢方の日本の鍼」との違いですが、本場の中華料理と日本の中華料理の違いとでも言うか、気候風土や食事をはじめとした生活習慣等の違いで、日本人と中国人の体質は異なりますので、かかりやすい病気も国によって違います。だから、中医学は、日本に伝わって、それなりに、より島国的というか全体的にソフト化されています。考えてみれば、365日中華料理を食べられる中国人と、1週間も油料理が続くと胃腸がもたない者の多い日本人とでは求める医療が違って当然です。

代表的な例を一つ挙げますと、「肩こり」です。まず「肩こり」という身体の症状を表す「名詞」は日本人で知らない人はいないでしょう。この「肩こり」と言う「症候名」は英語、ドイツ語はもとより中国にもないそうです。なぜなら、「肩こり」の症状を訴える人がいないから、その様な症状を表す言葉が必要なかったのです。
勿論一人もいない訳ではありませんが、「肩が張ってる」、とか「肩が重い」とか表現されるのみで、誰にでも現れる一般的な症状ではありません。私たち日本人の間では、「肩こり」を自分で感じた事がないひと、知らない人の方が少ないはずです。特に女性の場合、全んどの人が経験しています。また、四十肩、五十肩といった症候名も、日本以外には存在しません。と言う訳で、日本では中国と違って、この「肩こり」の治療に鍼灸院を訪れる方が大変多いです。何故なら西洋医学では西洋人に「肩こり症」が一般にはないので治療研究がされていない、病名もないし治療薬もないので病院に行っても治してもらえないんです。同じく「中医学」も「肩こり」だけの治療法は、ほとんど論じていないようです。冷えの観念も同じケースではないでしょうか。最近は、欧州でもソフト化された『日本鍼灸』に注目が集められ、欧州でも中医学とは区別してまだまだマイナーなカテゴリーですが特別に学べる所もあります。そこでは日本鍼灸に精通した先生が『五十肩』『冷え』についてお話をききますが、いったいどこまでこの概念が伝わっているのか、私も疑問です。日本人は誰でも知っているこの概念は、特別に説明しないとわからないほど、まれなケースのようです。

さらに「中国鍼」と「日本の鍼」との違いですが、「病気の見立て方」いわば「診断の手法」が違います。この部分は詳しく説明すると専門的で長くなって大変ですので、簡単にします。「中医学」の診断の基準はあくまで『陰陽五行説』いう哲学&概念にあります。この考え方に基づいて(利用して)症状を解析し治療方針を立てるのが一般的なようです。

日本の「漢方」では、「陰陽五行説」は普通は考慮に入れずに診断します。ですから「中医学」のように「病気を弁証する」という言い方はしません。
もっぱら「陰陽五行説」は考えず、患者に現れている病態のパターンをそのまま識別する事を重視しています。つまり、目の前の患者の症状に「陰陽五行説」的な理屈付けをしないのです。「是々非々」的というか、身体の変化した状態に応じた、あくま臨床重視という点に差があると思います。中医学を学んだ鍼灸師さんには弁証しない日本鍼はアバウトで不可解なようです。日本の鍼灸では「陰陽五行説」を用いず、それに負わない分だけ鍼灸師の裁量範囲が広くて、その結果、各々が自分で治療方法を試行し模索しますので治療の流派も「名医」の数だけあると言って過言ではない感じがします。つまり、日本鍼灸では、毎回の施術で、身体の観察を丁寧に行い、鍼でその患者に適切な皮膚刺激をすれば、身体は治癒に向うエネルギーを強めるので、どの流派も、それなりに効果がありますから、要は、やはり確かな身体表層の観察力の有無にかかってくるのが、日本の「鍼灸治療」ではないでしょうか。

また、中国と日本では使用する鍼(はり)の形状に大きな違いがあります。
中国人と日本人では鍼刺激に対する身体の受容力(体力)にかなり差があるようで、一般的な治療における中国の鍼は日本の鍼に比べて随分と太いのです。鍼1本当たりの刺激量も当然多くなり、中国の鍼の方が痛くてキツいのが普通です。何より現在、西洋医学の先進国でもある日本では「鍼灸」を含めた「漢方医学」は「すきま医療」でしかありません。中国のように今もなお大きな使命を持ち続けて危急な患者にも行われる様な事はまず有り得ないのが日本の現実です。それだけ中国は鍼灸の実力が生かされ、新たな可能性もどんどん追求出来る環境があるかとおもいます。
一方、西洋医学も進み、医療保険制度も発達した状況の日本で、中国であたりまえの「強い鍼の痛み」を我慢してまで保険の効かない高価な治療を受ける人は滅多にいないはずです。従って日本の鍼灸では「痛くない治療」が鍼灸の基本に成っています。勿論「素早い効果」の追及は当然のことですが、出来るだけソフトな刺激で症状を治めようとするのが日本の鍼の特徴です。

しかし、身体に何らかの刺激を与えて自然治癒エネルギーを増強させる治療法は、「鍼灸」に限らず常に「大きな落とし穴」がある事を覚悟しなければなりません。それは高等な脳を持つ生命体ほど、身体にかかわる「適応力」が大きいという事実です。つまり、人間はどんな刺激にも「馴れる」能力が大きいのです。最初から大きな刺激を与える治療法は、回数を繰り返すと身体は刺激に適応して(慣れて)反応力を徐々に失ってしまい、そのうちに刺激による効果が全くなくなる危険性を常にはらんでいます。
ですから、鍼灸師の技術力の研鑚ベクトルは「最少の刺激」でいかに大きな「治療効果」を生み出すかに向かうべきなのです。そうすれば身体が刺激に馴れて反応力を失なう恐れも少なく、何より、適切なツボだけを厳選して正確に取る治療であれば、刺激に馴れる間もなく数回の治療で治癒出来るはずです。そういった意味で、欧州で言えば、ホメオパシーが、日本の鍼灸と比較すると、体にやさしい治療という意味でつながる所があるのではないでしょうか。刺激量の少ない「日本鍼」の治療の「方向性」はその意味では、むしろ「中国鍼」に勝っているのかもしれません。(これはあくまでも私個人の意見です。)

以前ある鍼灸師さんが一度の治療に200本かそれ以上の数の「痛い鍼」を打つと述べておられましたが、それが如何に問題のある治療かは以上の私の説明でお解りいただけるかと思います。人間は痛みに対しても学習する高等な生物であることを忘れてはいけません。200本の鍼で治っていた患者さんは、その内に300本近く打たないと治らなくなるはずです。そして次は400本~ ....日本鍼灸では、いかに少ない鍼で治療するかということが大切とされています。広大な中国とは違って、経済的にも豊かで、重篤な患者は必ず病院に行ける日本の場合、鍼治療へのニーズはどうしても中国とは違ってしまいます。西洋医学で治らなかった慢性病や腰痛、冷え性、肩こりなど各種のデリケートな不定愁訴の治療には、「中国鍼」は刺激が大き過ぎる場合が多いのです。
初めての鍼灸治療には日本人の体力(体質)に合わせて開発された刺激の少ない「日本鍼」の治療から受けられるのが賢明かと思います。

身体に刺激を与えて自然治癒力を増強する目的の治療法(刺激療法)は、同じ効果が得られるなら当然、刺激量は少ないほうがいいわけです。最小の刺激で最大の治療効果を狙う、ついには1本(一カ所)のハリを打つだけで難病を治してみせる。これこそ鍼師の希求する「美学」みたいなものかと思います。そんな治療をできるようになる事を目標に、私も勉学を欠かさず、一歩一歩前進していきたいと思います。